・流行りのクリアなサウンドよりもピュアで濃密なサウンドが好き
・その上で色々な音が出せるとセカンドギターとしても使えて嬉しい
という方に現役楽器屋店員のYosh(@yoshguitarblog)が、SE Custom24の影に隠れてイマイチ注目されていないPRS SE Paul’s Guitarをおすすめします。
同じ特徴のギターはほぼありませんが、もっと多くの人に受け入れられるべきポテンシャルで、実際に手に取ってみると驚く人も少なくありません。
SE Paul’s Guitarの特徴
①:Paul’s Guitar の廉価版
②:レスポール+スペシャル直系サウンド
③:レスポールより弾きやすい演奏性
特徴①:Paul’s Guitar の廉価版
ブランド名でもある創設者ポールリードスミス氏が考える理想のギターとして誕生したPaul’s Guitar。それ以外のPRSは理想じゃないのかとツッコミがありそうですが、Paul’s Guitarはギタリストでもあるポール氏自身の趣味が強めのギターということでしょう。
事実まだ量産もしていない頃のPRS黎明期のモデルは、ギブソンレスポールジュニアやスペシャルを意識したものでした。その趣向と長年のPRSで培った成果を昇華したのがPaul’s Guitarです。
そしてこだわりのPaul’s Guitarを求めやすい価格で開発したのが、SE Paul’s Guitarです。
そのほかのSEシリーズ同様インドネシアのPRS専用工場で製造されており、魅力的なサウンドと弾きやすさを受け継ぎながら約15万円という本家の1/4ほどの価格を実現しています。
インドネシア工場でもPRSの製造技術は踏襲されており、職人の手作業も多く含まれます。特に人件費や材料費でコストカットをしており、品質を疎かにしているわけでは無いことは伝わります。
特徴②:レスポール+スペシャル直系サウンド
SE Paul’s Guitarのサウンドの秘訣
・オリジナルピックアップTCI”S”
・ピックアップ毎のミニスイッチ
・マホガニーボディ&ネック
・ラップアラウンドスタイルブリッジ
ピックアップはこのモデルのために開発されたTCI”S”。TCI(チューンド・キャパシタンス・アンド・インダクタンス)ピックアップは、ジョンメイヤーモデルのSilver Sky開発時に培ったヴィンテージシングルコイルの分析も反映されたハムバッカーで、コイルタップすることも前提に完成しました。
USA製Paul’s Guitarではコイルタップ時にシングルコイルに、ハムバッカー時にはソープバー(P-90)サウンドと謳われています。こちらのSEでは個人的にFender系の図太いアンプを使えばコイルタップ時にはシングルコイル、少しトーンを絞ればソープバー風、ハムバッカー時は純粋なレスポール直系サウンドという印象です。
これはメイプルトップ+マホガニーバックボディに、セットネック構造のマホガニーネックの木材の組み合わせも相まって、レスポールスタンダードなサウンドとレスポールスペシャルのサウンドが切り替えられる多彩さがあります。
コイルタップはピックアップ毎にスイッチがあるので、合計8種類ものサウンドが切り替えられます。コイルタップも妥協しないサウンドのため、シングルとハムバッカーでの音量差が少ないのも従来のハムバッカーでは得られないメリット。
テイルピースとブリッジが一体となったラップアラウンドスタイルのアルミ製ブリッジと、それを支えるブラス製スタッドもまた、太いサウンドを担っています。
太さ・甘さと艶っぽさを兼ね備えており、ブルース、ジャズ、ファンクといったブラックミュージックはもちろん、枯れたサウンドではなく出力もあるので歪ませることでロックからメタルにも対応しうる懐の深さはまさにPRSといったところです。
このハムバッカーとP-90風の切替で、まさにレスポールスダンダードとレスポールスペシャルを兼ね備えプラスアルファまであるような、SE Paul’s Guitarの魅力はあまり知られていないように感じます。
特徴③:レスポールより弾きやすい演奏性
レスポール直系サウンドでありながら、ギブソン系よりも薄く軽く、ボディバランスが良いので抱えやすいことと、ダブルカッタウェイとPRS独自のネックジョイントでハイポジションでの演奏性も抜群です。
SSHピックアップ配列のギターの歯切れ良いハムバッカーサウンドではなく、セットネックらしいギブソン系ハムバッカーサウンドが欲しいけどレスポールの重さやボディバランスが弾きづらいという人に嬉しい今までに無いギターです。
ハイエンドギターのように弦高がとても低くテクニカルなフレーズが弾きやすいというほどではありません。個別のサドルもなく細かな弦高調整は難しいですが、PRS SE専用工場によるフレット処理の綺麗さなどによりストレスを感じるわけではありません。
デメリット
②:木材でのコストカットが認識できる
デメリット①:太めのネック
ワイドファットシェイプのネックは現在ではやや珍しい太めのネックです。
フレットや指板サイドの処理は合格点なので弾きづらいわけではないですが、アメリカ製のヴィンテージ系リイシューのようなガッシリとしたネックは、現代的なギターに慣れている人には太すぎると感じるでしょう。
この太さもサウンドに起因しています。このサウンドが欲しいか、太いネックが好みであれば気にならないでしょう。
デメリット②:木材でのコストカットが認識できる
ボディバックのマホガニーには4ピースボディも存在します。木材が枯渇している昨今、トーンウッドとしての品質を保つものでこの価格を実現するための策でしょう。
またPRS SEシリーズ共通ですが美しい杢目トップは、本物の木ではあるものの薄いベニア板です。ルックスだけのために貼られてたもので、サウンドのために、その下にメイプル材を使いさらにマホガニー材を重ねてあります。
トップがベニアだったりボディが4プライだからサウンドが悪くなる、弾きづらい、安定しない、ということは無いので、デメリットというほどではないですが仕様にうるさい人は文句を言います笑。個人的に気になる部分ではありません。これが嫌なら高いギターを買うしかありません。
SE Custom24のと違い比較
SE Paul’s Guitar | SE Custom24 | |
---|---|---|
ボディトップ | フレイムメイプルベニア +メイプル | フレイムメイプルベニア +メイプル |
ボディバック | マホガニー | マホガニー |
ネック | マホガニー | メイプル |
ネックシェイプ | ワイドファット | ワイドシン |
ナット幅 | 1 11/16″ | 1 11/16″ |
スケール | 25″(635mm) | 25″(635mm) |
指板 | ローズウッド | ローズウッド |
指板ラディアス | 10″ | 10″ |
ブリッジ | ストップテイル | トレモロ |
ピックアップ | TCI “S” | 85/15 “S” |
コイルタップ | ミニスイッチ2個 | プッシュプルトーン |
出荷時弦ゲージ | 10-46 | 09-42 |
生産国 | インドネシア | インドネシア |
市場相場価格 | 154,880円 | 118,800円 |
PRSで最も売れているSE Custom24と比較してみます。
サウンドの比較
SE Paul’s Guitar・・・マホガニーセットネックらしいレスポール直系サウンド
SE Custom24・・・クリアでモダンな現代的なサウンド
ボディはメイプル+マホガニー、ローズウッド指板は同じですが、主にネック材とピックアップ、ブリッジに違いがあります。
またペグもSE Paul’s Guitarは軽量なヴィンテージスタイル、SE Custom24はPRSのロトマチックスタイルを採用しており、ヘッドの比重も考慮しているようです。
SE Paul’s Guitarはこれまでの解説の通り、パワフルなギブソンスタイルのサウンドです。枯れ感やいなたさは無くヴィンテージ系では無いですが、ブルースロック、モダンジャズ、ソウル系におすすめ。歪ませれば図太さが引き立つのが魅力です。
特筆すべきは22フレット仕様によるフロントピックアップの豊かなサウンド。プロにも通うギターショップHoochiesの村田善行氏をして、30万円クラスの楽器に引けを取らないと言わしめる絶品サウンドです。
一方SE Custom24はメイプルネックと85/15″S”ピックアップにより、レンジが広く高音域もキラッと出ます。ロック、ポップス系やキレのあるカッティングにもおすすめです。ややハイファイなので最近のデジタル系機材とも相性が良いです。歪ませても抜けの良さがあります。
あらゆるジャンルに対応できる幅広さがありますが、全体的にクリアで優等生のため、Paul’s Guitarのように強烈な個性はありませんが、扱いやすいとも言えます。
ピックアップセレクターとコイルタップの組み合わせは、SE Paul’s Guitarが8通り、SE Custom24が6通りです。SE Paul’s Guitarではタップしても音量が大きく変わらないため、曲中の切替でも違和感がありません。SE Custom24はタップ時の音量は下がってしまいます。
以下の同じYouTubeアカウントが聴き比べやすいです。特に高音域に注目すると違いがわかりやすいです。
演奏性の比較
SE Paul’s Guitar・・・太めのネックでブルース、オールドロック系ギタリスト好み
SE Custom24・・・やや薄めのネックで現代的なギタリスト好み
押弦のしやすさ、サウンドのハリ、音程の安定性を兼ね備える25インチのPRSスケール、10インチ指板ラディアスは共通です。
ネックの太さとブリッジによる弦高調整具合で、弾き心地は異なります。
ネックの太さは好みですが、どちらも極端すぎるということは無いので、ほとんどの人は慣れれば無理なく弾けるようになれると思います。とは言えギター1年目の人にはPaul’s Guitarに慣れるのは少し大変かもしれません。
弦高調整に関してはCustom24の方が低くセッティングできます。24フレット仕様・薄めのネックということもありスウィープやタッピングなどテクニカルな速弾きもやりたいという人はSE Custom24が良いでしょう。
SE Paul’s Guitarはネックの太さ、ラップアラウンドのブリッジを採用したことは、演奏性よりもサウンドを重視した結果と言えそうです。
ちなみに工場出荷時の弦の太さも異なるため、弾き比べる機会があれば意識しておいた方が良いでしょう。
選び方
・レスポールの音は好きだけど弾きづらいと感じる
・ハムバッカーとP-90風サウンドを1本で出したい
・コイルタップ時のサウンドで音量を下げたくない
・トレモロ搭載ギターでは得られない濃密なサウンドが欲しい
・10万円台のギターが良いが太めのネックが良い
・弾きやすさよりもサウンドを重視する
・ハムバッカーをメインに使うが、幅広くあらゆるジャンルに対応できるギターが良い
・24フレットと薄めのネックで、テクニカルな速弾きを弾きたい
・ボルトオンの万能ギターでは歯切れが良すぎて太さが足りないと感じる