現役楽器屋店員のyosh(@yoshguitarblog)です。
2022年10月に待望のUSA製フェンダーのヴィンテージスペックシリーズ、American Vintage IIシリーズが発売されました。この中で最も注目度の高い、アルダーボディ、ローズウッド指板のストラトであるAmerican Vintage II 1961 Stratocasterをレビューします。
・USA製唯一のヴィンテージ同様の演奏性は握り込むフォームに合うと同時に、繊細なアーティキュレーションが表現できる
・枯れ感と艶やかさを兼ね備えたこれぞフェンダーストラトと言えるサウンドは、カスタムショップを除けばこれが唯一
メリット・デメリット
メリット
①:カスタムショップの半額で買える1961年製ストラトのリイシューモデル
②:これぞストラトサウンドと言える60sサウンド
③:ヴィンテージスペックによる繊細な演奏性
デメリット
①:オールラッカーフィニッシュではない
②:玄人志向の演奏性
メリット①:カスタムショップの半額で買える1961年製ストラトのリイシューモデル
現在フェンダーカスタムショップ製チームビルドで60万円前後から。中古でも40から50万円台も珍しくありません。
American Vintage II 1961 Stratocasterは新品の市場相場価格で313,500円です。
1961年製はストラトキャスターにおいて最も王道のスペックを有します。
厚みがあるスラブ貼りのローズウッド指板とアルダーボディによるサウンド、7.25″ラディアス指板によるヴィンテージ志向の演奏感が堪能できます。
スモールヘッドにスパゲティロゴに加え、ネックのメイプルは飴色に着色されており、ルックスも王道かつヴィンテージ。
ボディシェイプはもちろん、コンターの深さやピックアップカバーの面取りなど、この年代ならではのディティールまでもしっかり再現されています。
カラーは3-カラーサンバースト、オリンピックホワイト、フェスタレッドの3色。
ジョン・フルシアンテ好きならドンズバなルックスですね。
左利き用も同じ3色をラインナップしています。
メリット②:これぞストラトサウンドと言える60sサウンド
アルダーボディとスラブ貼りローズウッド指板の組合せに、新たに設計されたピュアビンテージ61シングルコイルピックアップを搭載。
前述のレッチリのジョンしかり、ジョンメイヤー、スティーヴィーレイヴォーンといった、枯れ感のある往年のフェンダーストラトサウンドと言えば最もイメージしやすいのではないでしょうか。
アルダー+ローズの枯れたウッディな感じと、角が立たない超高音域の広がりある、それでいてフェンダーらしいイナタさが共存したサウンドです。この点(特に前者)は日本製やメキシコ製のモデルではあまり感じられない、美味しいポイントです。
USA製フェンダーの中でもノイズレスピックアップを搭載したようなAmerican Ultraシリーズをはじめとする現代的なモデルは、この”角が立たない広がりのある超高音域”が削れてしまっています。輪郭ある高域はよく言えばタイト、ヴィンテージ系サウンドと比べれば少し金属的とも言えます。
American Vintage IIは金属的ではなく、木の暖かみが感じられるヴィンテージフィールのある枯れ感・ウッディなキャラクターに、良い塩梅のルーズな低域と艶やかさも感じる中域と倍音感あるサウンドはトラディショナルなロックやブルースサウンドが好きな人にはたまらないポイントです。
メリット③:ヴィンテージスペックによる繊細な演奏性
しばらくUSA製ではラインナップになかった、ヴィンテージスタイルの7.25″ラディアス指板。
過去のFender Japan期で馴染みがある方も多いかもしれませんが、実際にAmerican Vintage II Stratocasterに触れてみると旧国産のそれとの違いが実感できます。
7.25″R指板のデメリットは弦高を下げると、ハイフレットでのチョーキングで音が詰まってしまうことが挙げられます。
しかしアメリカンヴィンテージ2はヴィンテージトールのフレットサイズもあり、そもそも弦高を下げる必要が無いくらい弾きやすいのです。もちろんメタル速弾き的な弾きやすさではありませんが、押弦に力みは不要です。ですので、超テクニカルな演奏のためにガチガチなセッティングをしたい、という人でなければ弾きづらいと感じることはないでしょう。
加えて7.25″Rの魅力は握り込むフォームでの演奏性です。親指でルートを押さえたり、ギターを低い位置で構える人にも良いです。
個人的に7.25″Rならではの繊細なアーティキュレーションもあると思っていて、ルーツミュージック寄りのジャンルに良く合う要因のひとつだと考えています。
スペックだけではわからない、価格に見合った高品質な弾き心地はさすがです。
デメリット①:オールラッカーフィニッシュではない
これはマニアが気にするところです。スペックには「ニトロセルロースラッカーフィニッシュ」と記載があるだけですが、実際には下地はウレタン、その上をラッカーで仕上げています。
コストカットの側面もあると憶測しますが、NOSではなくレリックこそ施されていないものの各部のディティールとヴィンテージスペックのルックス、ヴィンテージフィールのあるサウンド傾向はUSA工場製では現状American Vintage IIしかありません。
生産効率を求めたヴィンテージの方向性に反し、マスタービルダー品はもはやハイエンドギターで、サウンドキャラクターに違いはあります。
一方、ひとまとめにすると乱暴ではありますが、チームビルドのカスタムショップ製とAmerican Vintage II を比較すると、カスタムショップ製の方がさらに玄人向けと言えます。サウンドの方向性は同じですが、カスタムショップ製の方がさらに繊細さ、反応の高さ、レンジの広さというか解像度の高さを感じます。転じてAmerican Vintage IIの方が扱いやすいとも言えます。
いずれにしろ往年のヴィンテージ系フェンダーストラトサウンドを高次元で再現できている現行フェンダー製品は、カスタムショップを除いてこのAmerican Vintage IIしかありません。
デメリット②:玄人志向の演奏性
7.25″Rや6点留めのシンクロナイズドトレモロの操作性には、一部の人には慣れが必要です。
特にハイエンド系に代表されるモダン仕様の快適な演奏感、操作性に馴染みがあるなら違和感があるかもしれません。例えば1弦12フレットで1mmというような低い弦高の弾き心地は、American Vintage IIに無改造で求めてはいけません。
しかしここ10年ほどは弦高が低い方が弾きやすい、好きというプレイヤーが多いように感じますので、デメリットとしても挙げさせていただきました。ヴィンテージスペックとモダンスペックの演奏感の違いは良し悪しではなく、好みの問題です。
旧シリーズAmerican Original 60s Stratocasterとの比較
American Vintage II 1961 Stratocaster | American Original 60s Stratocater | |
---|---|---|
生産国 | USA製 | USA製 |
ボディ | アルダー | アルダー |
ネック | メイプル | メイプル |
ネックシェイプ | 1961 “C” | Thick “C” |
指板 | スラブ貼りローズウッド | ラウンド貼りローズウッド |
指板ラディアス | 7.25″ (184.1 mm) | 9.5″ (241 mm) |
フレットサイズ | ヴィンテージトール | ヴィンテージトール |
ナット | ボーン1.650″ (42 mm) | ボーン1.650″ (42 mm) |
インレイ | クレイドット | ホワイトパーロイド |
ピックアップ | Pure Vintage ’61 Single-Coil Strat | Pure Vintage ’65 Gray-Bottom Single-Coil Strat |
コントロール | Master Volume, Tone 1. (Neck/Middle Pickups), Tone 2. (Bridge Pickup) | Master Volume, Tone 1. (Neck Pickup), Tone 2. (Bridge/Middle Pickup) |
ブリッジ | ピュアビンテージシンクロナイズドトレモロ w/ベントスチールサドル | ピュアビンテージシンクロナイズドトレモロ w/ベントスチールサドル |
ペグ | ピュアビンテージシングルライン”フェンダーデラックス” | ピュアビンテージシングルライン”フェンダーデラックス” |
ピックガード | 3-プライ ミントグリーン | 3-プライ ミントグリーン |
ロゴ | スパゲティ | トランジション |
相場価格 | 313,500円 | 280,170円 |
2018年から2021年まではAmerican Originalシリーズがアメリカ製のヴィンテージスタイルを担っていました。2022年10月に発売されたAmerican Vintage IIシリーズと比較してみました。
American Original 60s Stratocasterはその名の通り、特定の年代ではなく60年代を象徴する仕様を軸に、現代でも扱いやすい仕様を融合させています。悪く言えばヴィンテージの再現ではなく、どっちつかずという評価が多かったように感じます。個人的には9.5″Rラディアス指板は多くのプレイヤーにとって受け入れられやすい一方、ヴィンテージ志向のプレイヤーの選択肢をカスタムショップに限定してしまっていたのも事実。
またルックス面において、スモールヘッドのスパゲッティロゴ、という王道のルックスが復活したのもAmerican Vintage II 1961 Stratocasterの嬉しいポイントです。
同時に比較したことが無いので明言はしづらいですが、サウンドについて劇的な差は無いように感じます。いわゆる60年代のフェンダーストラトサウンドという方向性です。
本物のヴィンテージやカスタムショップには手が届かないけれど、憧れがあるという人も少なくないと思います。そんな所有欲を満たしてくれるのは、特定の年式の細部まで再現されているヴィンテージリイシューモデルこそではないでしょうか。
・タイトでクリアな現代的なフェンダーサウンドが好みでない
・枯れ感、ルーズで艶と広がりのある”往年のフェンダーサウンド”が好き
・ジョンフルシアンテ、ジョンメイヤー、SRVなどの王道ストラトサウンドが好き
・フェンダーのスモールヘッドとスパゲッティロゴを含めたルックスが好き
・左手は握り込みフォームで、親指でも6弦を押さえる、ギターを低く構える
・ピッキングニュアンスにしっかり反応し、アーティキュレーションを大切にしたプレイをしたい