【スペックの読み方】塗装、フィニッシュの違い

ギターはスペック(仕様)から演奏性やサウンド傾向が比較的把握しやすい楽器です。当ブログでは【スペックの読み方】と題し、スペックの違いによるギターのキャラクターの違いを説明します。

ネットで好みのギターを探したり、オーダーメイドする際の参考になれば幸いです。

今回のテーマは塗装。

ほとんどのギターは木材でできています。

木材が外気と接すると、水分を放出または吸収し、変形や過乾燥では割れの恐れがあります。

塗装はそれを防ぎ、木材を保護するためのものです。

その塗装にもいくつか種類があり、それぞれに特徴があります。

外観のみならず硬さや、厚み(重さ)によって、サウンドにも影響があります。

仕上げ

グロス(艶がある)仕上げ
サテン(艶がない)仕上げ

それらの種類の前に、勘違いしがちな点がひとつ。

それがグロス(艶有り)と、サテン(艶無し)の仕上げです。

これらは塗装の種類ではなく、最後の仕上げの違いです。

かなりざっくりですが、塗装が乾燥した状態は艶のないサテンの状態です。

これをバフで磨きグロスに仕上げます。

主にルックス面の仕上がりの違いですが、グロス仕上げは磨くという工程がひとつ増えますので、その分コストも上がります。

もちろんグロス仕上げよりも高級なサテンもたくさん存在しますが、これは塗装以外でのコストの違いです。

また、くっきり映り込むような鏡面仕上げのようなグロスから、半艶仕上げとその中間もあります。

ポリ塗装

ポリ塗装と一言で括られることがありますが、ギターによく使われるポリ塗装はポリエステルとポリウレタンの2種類です。

温度、湿度変化による木材の反りや割れを防ぐための木部の保護という点においては他の方法に比べ最も優れています。

完全硬化が早く、完成後の安定性が高いです。

ポリエステル

吹付け後の乾燥、硬化が早く、また一度の工程で塗膜を厚く塗れます。

これにより手間と時間を短縮できるため、特に安価なギターに最も採用されています。

塗膜が厚く硬いため、キズに強く頑丈で、ほとんどのギター用ポリッシュが使用できるなど、お手入れも簡単です。

逆に柔軟性が無いため衝撃にはやや弱く、落下などによるダメージでは塗装がポロッと欠けてしまいます。

サウンドへの影響

塗膜が分厚いものが多いため、その分重量が重くなり木材のキャラクターの特徴はやや薄くなります。

倍音成分もやや鳴りを潜め、ストレートなサウンドです。

デジマートマガジンでこんな実験結果がありました。

https://www.digimart.net/magazine/article/2014092901074.html

安価な木材でもある程度の

大量生産=安定した品質を保つにもぴったりです。

例外的に塗装技術も進化しており、木部を保護するという観点からフジゲンなどでは高価格帯の機種にも採用されています。

ポリウレタン

特徴としてはポリウレタンに似ていますが、ポリウレタンよりも硬化が遅く、塗膜は薄いです。

そのため何度か重ね塗りが必要なため、手間と時間がかかりコストと上がります。

逆に塗膜を薄く仕上げることも可能。

またポリエステルよりもやや柔軟性があり、衝撃により割れには強いと言えます。

サウンドへの影響

硬さによりサウンドはややモダンな傾向になります。

薄く仕上げれば塗装の重量が軽くなり木材の特徴が引き出せます。

強度があり手入れもしやすく、モダンなコンポーネント系ギターであれば塗膜を薄く仕上げ木材のキャラクターを生かしたサウンドを獲得しています。

ラッカー

ギターでは最もトラディショナルな塗装です。ギブソンやフェンダーなどヴィンテージモデルの頃から使われている、ニトロセルロースラッカーが最も人気です。

乾燥すると薄く仕上がるため高度な技術が不要だったのも、当時の製造方法としても最適だったのかもしれません。

しかしメンテナンス性においてはやや注意が必要です。

ゴムなどの化学物質と反応し、溶けたり変色します。

ギタースタンドに置くと、同長時間当たる箇所は非常に危険です。

そのためラッカーのギターをスタンドで使用する際には、ギターの当たる部分にガーゼを巻く、布を置くなどの対処が必要です。

また楽器店の展示品の様に、ギタースタンドカバー(ブラジャー)も販売されています。

ただし、ゴムが使われているのは滑りづらく安定感を確保するためなので、こういった対処をすると滑りやすくなるため取扱いには注意が必要です。

スタンドにもラッカー対応と表記してあるものでも、スタンド焼けの恐れはありますので過信できません。

また汚れを落とすため溶剤の入ったラッカー非対応のポリッシュの使用は厳禁です。

塗装の薄さもさることながら、柔らかいため、強度は高くありません。

傷はポリ系と異なり、削れていく感じです。

サウンドへの影響

塗装は柔軟性があるため、木材の振動がしっかり生きるため、塗装が薄ければ薄いほど木材の特徴がサウンドに出てきます。

倍音豊かなトラディショナルな響きはラッカーによるものは大きいです。

フェンダーやギブソンのヴィンテージ系信者が多いためラッカー至上主義な論調が多いのもこのためだと思います。

現行モデルのUSA製フェンダーでもヴィンテージスペック以外はラッカーではなく、ポリウレタンが使用されており、

フェンダーだけど枯れ感がないサウンドなのも、このポリ塗装が大きな影響を及ぼしています。

逆に今のフェンダーの商品開発はあまりトラディショナルな方向性ではないのです。

トラディショナルなサウンドを求めるなら、別のブランドにたくさんあります。

フェンダーにこだわるならカスタムショップしか選択肢がないのが現状です。

残念ながら現行機種のAmerican Originalシリーズもあまりトラディショナルなサウンドではありません。。。

レリック加工

特に人気なフィニッシュのひとつがレリックです。ギブソンではAged(エイジド)と呼ばれます。

中でもウェザーチェック(クラック)がただの傷ではなく、最も特徴的な仕上がりです。

温度や湿度の変化で木材と塗装は収縮しますが、それぞれの収縮に差異があるため塗装にヒビが入ります。

新品でもヴィンテージさながらのルックスが人気のレリックですが、

ただ傷だらけにすれば良い訳ではなく、どんなジャンルのどんなプレイヤーが使用していたか想定できるような傷の付き方など、長年使い込まれたかのようなレリック具合がセンスを問われます。

ルックス面だけで言えば

RS Guitarworksは最高級です。

RS Guitarworks

FenderCustom Shopでも個体によってかなり差があります。

BacchusやEdwardsなどのレリックはダメです。みんなそう思っていたのか最近は新品が出回ってませんね。

また新品のギターを使い込んで自分でレリックに仕上げるのも、薄いニトロセルロースラッカーのものをめちゃくちゃ使い込んでやっと傷つくレベルだと思います。

ポリ系塗装は削れたりウェザーチェックが起こらないため、これはラッカーならではの仕上がりです。

ものによってはアンダーコートをポリで、トップだけをラッカーで仕上げた複合型の塗装もあります。

こういったギターをレリックに仕上げるのは困難ですね。

ちなみにこの塗装はラッカー仕上げの高級感をコストを落として演出したい場合に用いられます。

レリック加工によるサウンドの影響

理屈で言えば厳密には影響があるというのが私の持論です。

レリック無し、すなわち1枚の塗膜で覆われているものと、何枚にも別れた塗膜での振動の伝わり方は変わるはずです。

また、弦が触れるサドルなどの金属パーツもサビにより弦振動も殺される部分はあると思います。これはくすんだフレットと磨いたフレットでサウンドが変わるのと同じイメージです。

その辺もヴィンテージ系サウンドの要因のひとつでしょう。

オイル

よく見かけるブランドはMusic ManとBacchusですね。

スプレーガンで吹き付ける上記の塗装方法とは異なり、オイルを塗り込む塗装です。

塗膜がほとんどないため木の質感そのままの仕上がりとなります。

オイルを木材に染み込ませる事で、水分による木材の変化を防ぐ目的です。

とは言え塗膜が無いため、一般的な塗装に比べ湿度変化の影響は受けやすいです。

加えて、傷はもろに付きますし、ネックは黒ずんだり、ボディは色が褪せるなど経年変化はラッカー以上です。

この変化を楽しめるか受け入れられないかは人それぞれでしょうね。

サウンドへの影響

これは見た目の通り木の特性そのまんま生きるという感じでしょうか。

とはいえ工法が異なるためヴィンテージサウンドのそれとも違いますし、モダンでもない、なんだか中途半端な印象です。

まとめ

サウンドへの影響は

塗装の厚さ 

ポリエステル>ポリウレタン>ラッカー>オイル

薄いほどウッドマテリアルの影響大

塗装の硬さ

ポリエステル>ポリウレタン>ラッカー>オイル

硬いほどモダンに、柔らかいほどトラッドなサウンド傾向に。

それぞれに合ったポリッシュの紹介記事はこちら

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