現役楽器屋店員のyosh(@yoshguitarblog)です。2021年11月に待望のメキシコ製Acoustasonicが発売されました。
その特徴や音色の一覧、USA製のAmerican Acoustasonic Telecasterとの違いをレビューします。
Acoustasonic Player Telecaster特徴
①:アコギとエレキが融合した独自構造
②:エレキギター色の強い演奏性
③:タイプの異なるの2つのピックアップを搭載
特徴①:アコギとエレキが融合した独自構造
アコースティックギターとエレキギターを融合させた全く新しいギターがAcoustasonicです。
エレキ並みのボディ厚でありながら、特許取得済のStringedInstrument Resonance System(SIRS)による独自設計のサウンドホールを採用。
生音でもそこそこ大きな音量で鳴ります。集合住宅だと深夜のストロークは避けた方がよさそうなレベル。
ヘッドフォン無しの薄型ボディで気軽に、アンプを繋がずに家でつま弾くには丁度良さそうです。
この構造のギターにエレキとアコギのピックアップを搭載し、独自のエレクトロニクスでエレキ・アコギいずれのサウンドメイクも可能です。
特徴②:エレキギター色の強い演奏性
ボディの薄さに加え、エルボーコンターを施すことで、まさにエレキギターの様な抱え心地です。
ネックもボルトオンながらもヒールレス加工が施されており、通常のアコースティックギターでは実現できないハイフレットでの演奏性です。
22個のナロートールサイズフレット、約42.8mmのナット幅とモダン”ディープC”という太過ぎず薄すぎない標準的なネックシェイプも、エレキギター譲りと言えます。
一方、ブリッジサドルやカスタムライトゲージ(11-52)のアコギ弦といった部分はアコースティックギターに準じています。
実際に弾いてみて抱えた感触はエレキギターに近いですが、ブリッジの構造や弦の材質、テンション感などから弦を押さえる感覚はアコースティックギターに近い感じでした。
特徴③:タイプの異なるの2つのピックアップを搭載
ピックアップにはサドルの下に仕込まれるFishman製ピエゾピックアップと、エレキギター同様のマグネティックピックアップには巨匠Tim ShawデザインによるFender Acoustasonic Noiselessを搭載。
どのピックアップから出力するか3段階のピックアップセレクターで切り替え、ノブで2タイプの音色をシームレスにブレンドできます。
これらの音色はピックアップで拾ったサウンドをそのまま出力するだけでなく、モデリングしたサウンドを加えて出力されます。
サウンドボイス一覧とサウンド動画
なぜかブランドサイトには内蔵音色が記載されていないため、マニュアルを参照して解説します。
A | B | |
ポジション1 | Noiseless Tele Pickup: クリーンなテレキャスタートーン | Fat Noiseless Tele Pickup: パワーを上げて少し歪んだテレキャスタートーン |
ポジション2 | Lo-Fi Clean: 純粋なアンダーサドルピエゾピックアップ | Lo-Fi Crunch: ピエゾPUサウンドに歪みを加え、エレキとアコギを同時に鳴らしたようなサウンド |
ポジション3 | Mahogany Small Body Short Scale: 戦前のGibson LG-2風。ショートスケールマホガニーボディの、タイトかつウォームなアコギサウンド。 | Rosewood Dreadnought: Martin D-28風。煌びやかな高域から豊かな低域まで出る、クラシックなアメリカンアコギサウンド。 |
ポジションは3段階のピックアップセレクターで切り替え、A/Bの音色はノブを回して無段階にブレンドできます。回し切れば純粋な1つだけの音色になります。
エレキとアコギが切替可能で、各々をシームレスにブレンドできるためまさに無限のサウンドメイクが可能です。
ポジション1
ポジション1のノイズレスピックアップはほとんどエレキギターの音ですが、ギターの構造やアコギ弦ということもあって、テレキャスター由来のTwangyトーンというよりは、もう少し滑らかな感じです。エフェクターを使わず歪みが得られるのは良いですね。
ポジション2
ポジション2はほぼ純粋なピエゾピックアップの音です。ほとんどのエレアコはこの構造ですので、まさにそれに近いサウンド。ブレンドノブでクランチトーンを足してあげると、アコギとエレキを同時に鳴らしたようなサウンドが得られます。
ポジション3
ポジション3はピエゾピックアップからのサウンドに、アコギのボディ鳴りなどを再現したモデリング音を足しており、かなりアコギらしいサウンド。下手なエレアコや慣れないマイク録りよりも、手軽にリアルなアコギサウンドが得られます。
Fender側から機種の明記は無いですが説明から察するにGibson LG-2とMartin D-28でしょう。この名器2本が Acoustasonic Player Telecasterこの1本で鳴らせるというのはなかなか魅力的。
レンジが狭く暖かみのあるLG-2とレンジが広く煌びやかなD-28という両極にあるトーンをブレンドできるため、EQを使わずしてあらゆる自然なアコギサウンドが得られます。
こちらの動画の冒頭で全ての音色が聞けます。
デメリット:アンプによってサウンドが大きく変わる
アコギの音もエレキの音も出せるギターではありますが、使用するアンプによってサウンドが大きく変わります。
エレアコをエレキギターアンプに接続したことがある人ならイメージしやすいと思いますが、例えばスタジオの定番アンプRoland JC-120に接続してアコギの音を出してみると、悪くは無いですがリアルなアコギサウンドとはちょっと違います。
というのもエレキギター用のアンプはエレアコ用アンプやPAスピーカーに比べて再生帯域のレンジが狭いため、アコギ特有の空気感や豊かさが表現しきれません。
特にMarhallのスタックアンプなんかだとギャリギャリな感じになったり、ブーミーな感じになったりとあまりおすすめできません。
それこそ定番アンプの中で一番おすすめなのはTwin Reverb等のFender系コンボアンプ。ウォームなアコギサウンドとして使い勝手は良いでしょう。
逆にエレアコ用アンプに繋げば上等なアコギサウンドが得られますが、N4ピックアップのエレキサウンドが暖かみが少ないハイファイなサウンドになってしまいます。
結論としてはエレキサウンドメインならFender系コンボアンプ、アコギサウンドメインならエレアコ用アンプを使うのが良いですね。あえて得意じゃない側のサウンドを使う事もAcoustasonicによる新たなサウンドと捉えることもできますし。
どっちも妥協したくないという場合は、エレアコ用アンプを使用して、エレキサウンド使用時にマルチエフェクター等のモデリングアンプ+キャビシミュやIRを使用するという感じも良さそうです。いずれにしろ出てきたばかりの新しいギターですからその使い方も含めて、いろいろ試したくなるプレイヤーにこそ使っていただきたいギターですね。
【メキシコvsUSA】American Acoustasonic Telecasterとの違い比較
仕様 | Acoustasonic Player Telecaster | American Acoustasonic Telecaster |
---|---|---|
生産 | メキシコ エンセナダ工場 | アメリカ コロナ工場 |
ボディ | マホガニー | マホガニー |
ボディトップ | スプルース単板 | スプルース単板 |
ネック | マホガニー | マホガニー |
ネックシェイプ | Modern “Deep C” | Modern “Deep C” |
スケール | 25.5″(648mm) | 25.5″(648mm) |
指板 | ローズウッド | エボニー |
指板ラディアス | 12″(305mm) | 12″(305mm) |
フレット | 22 ナロートール | 22 ナロートール |
ナット幅 | 1.6875″(42.86mm) | 1.6875″(42.86mm) |
ナット | グラフテック TUSQ | グラフテック TUSQ |
コントール | ボリューム、ブレンドノブ、3-Way | ボリューム、ブレンドノブ、5-Way |
ピックアップ | 2個:アンダーサドルピエゾ、ノイズレスピックアップ | 3個:アンダーサドルピエゾ、ノイズレスピックアップ、ボディセンサー |
ブリッジ | グラフテック TUSQ | グラフテック TUSQ |
電源 | 9V電池/20時間 | 内蔵充電バッテリー/最大20時間 |
弦 | フォスファーブロンズ11-52 | フォスファーブロンズ11-52 |
ケース | Deluxe 1225 Gigbag | Deluxe 1225 Gigbag |
カラー | 4色:ブラッシュドブラック、バタースコッチブロンド、シャドウバースト、アーティックホワイト | 5色:ブラック、クリムゾンレッド、ナチュラル、スティールブルー、サンバースト |
市場相場価格 | 168,300円 | 267,300円 |
構造やサイズ、使用パーツなどの大枠での違いはありません。生産国の違いによりAcoustasonic Player Telecasterの方が約10万円ほど価格が安くなりましたが、一部機能も少なくなっています。
違い①:ピックアップ
フィッシュマン製のピエゾと、ノイズレスピックアップは同じもののようですが、PlayerはAmericanに比べピックアップのボディセンサーが非搭載です。
ボディセンサーエンハンサーはボディ内部のマイクで、サウンドにボディ鳴りのエアー感やレゾナンスを加えてくれるためアメリカ製の方が、よりリアルなアコースティックギターサウンドが得られます。
またボディヒットの音を拾ってくれるピックアップなので、スラム奏法のレコーディングやルーパーでのパフォーマンスは重宝するだけに一番の残念なポイントと言えます。
特にアコースティックギターサウンドにおいては、Americanの方が奥行や立体感を感じる豊かな響きなので、Playerの方がややチープな印象を受けます。こちらの動画の13:20から比較があります。画面左がメキシコ製、右がUSA製です。
違い②:音色数
ピックアップがひとつ少ないことで、ピックアップセレクターによる音色切り替えも少ないです。アコギのモデリング音色も少なくなっています。
しかしAmerican Acoustasonic Jazzmasterに搭載されていたLo-FiサウンドがAcoustasonic Player Telecasterに内蔵されており、必ずしも下位互換というわけではありません。
American Acoustasonicの内蔵音色はこちら。
American | A | B |
ポジション1: エレクトリック | フェンダーエレクトリッククリーン: マグネティックPUによるエレキサウンド | フェンダーエレクトリックファット/セミクリーン: マグネティックPUによるエレキサウンド |
ポジション2: アコースティック&エレクトリックブレンド | シトカスプルース/マホガニードレッドノート: Martin D-18風。濃密な中音域とワイドレンジなアコギサウンド。 | セミクリーン: アコギサウンドにエレキサウンドをブレンド。 |
ポジション3: パーカッション&エンハンスドハーモニクス | シトカスプルース/ブラジリアンローズウッドドレッドノート: ヴィンテージD-28風。リッチかつ重厚なアコギサウンド。 | ボディ内部ピックアップのブレンド: アコギサウンドにボディヒットやハーモニクスをブレンド。 |
ポジション4: オルタナティブアコースティック | イングルマンスプルース/メイプルスモールボディ: パーラーサイズアコギ。明瞭なサウンドでタッチにも追従します。 | シトカスプルース/マホガニードレッドノート: Martin D-18風。濃密な中音域とワイドレンジなアコギサウンド。 |
ポジション5: コアアコースティック | シトカスプルース/ローズウッドドレッドノート: Martin D-28風。トラディショナルなアコギサウンド。 | アルパインスプルース/ローズウッドオーディトリウム: モダンでポップなアコギサウンド。 |
違い③:指板・ブリッジ材
指板とブリッジの木材がそれぞれ、メキシコ製はローズウッド、アメリカ製はエボニーを採用しています。
指板材によるサウンドへの影響は多少ありそうですが、それ以上に前述のピックアップの違いが大きいのでこの点はあまり比較対象としては考えなくて良いでしょう。
エボニーは昔ながらの真っ黒ではなくエキゾチックな木目なので、見た目の印象がけっこう違います。
違い④:バッテリー
電源はPlayerが9V電池、Americanは充電式バッテリーを内蔵しています。
Playerの駆動時間は非公称(メーカーに問い合わせたところアルカリで20時間は持つとのこと)、Americanは最長20時間の連続駆動が可能。バッテリー残量が少なくなるとLEDが点滅しmicro-USBケーブルで充電します。
違い⑤:仕上げのクオリティ
スペック表や写真だけではわからない部分ですが、細かな部分を見たり実際に触ってみると違いを感じます。
やはりUSA製の方が製作にかけられる時間と職人のスキルからかナットの調整具合など演奏性に直結する部分のクオリティは高いです。
しかしメキシコ製もフレットエッジの仕上げなどは十分良く、弾きづらいというわけではないのでご心配なく。
まとめ・選び方
フェンダーによるアコギとエレキが融合したAcoustasonicに、生産工場やボディセンサーを廃したことで約10万円も安くなり、手が届きやすくなったAcoustasonic Player Telecaster。
新しいサウンドによる次なるスタイルを確立したいプレイヤーに注目してほしいギターです。
こんな人はメキシコ製Acoustasonic Player Telecaterがおすすめ
・アコギ+エレキの新しいサウンドが欲しい
・エレキに近い演奏性でアコギサウンドが欲しい
・ボディヒットの音はいらないので約10万円安い方が良い
・アンプを繋がなくても丁度良い音量と音質で家でつま弾きたい
・普通のエレアコのライン音よりも豊かなモデリングサウンドが欲しい
・逆にある種チープとも言えるローファイなFiサウンドも欲しい
こんな人はUSA製American Acoustasonic Telecasterがおすすめ
・スラム奏法もラインアウト出力したい
・特に弾きやすくストレスなく演奏したい
・ルーパーでのパフォーマンスにボディヒット音を入れたい
・ボディセンサーによるさらにリアルなアコギサウンドが欲しい
・メキシコ製以上にもっと多彩なサウンドバリエーションが欲しい
USA製Acoustasonicには内蔵音源やピックアップが異なる、Telecaster, Stratocaster, Jazzmasterの3機種が展開されています。それらの違いなどの解説はこちらの記事をご覧ください。