●予算10万円台で、初心者ギターからの買い替えやセカンドギターを探している
●好きなギタリストの愛機に近いルックスのギターが欲しい
という方に、元楽器屋店員のYosh(@yoshguitarblog)が、2023年9月に発売されるフェンダーの新シリーズVintera IIについてレビューします。
旧Vinteraからの変更点や、日本製のヴィンテージ仕様Heritageシリーズとも比較します。
Vintera IIはメキシコ製ヴィンテージ仕様のモデル群。
15万円前後ながらフェンダーのキャラクターがしっかり感じられます。
過去のメキシコ製とは異なり、ローズウッド指板を採用しているのが最大のトピック。
7.25”Rの指板は、ローコードやシェイクハンドのフォーム、カッティングにおいてメリットがありますが、弦高が下げづらいといったデメリットも存在します。
しかし、ヴィンテージトールサイズのフレットであるため、演奏性は悪くありません。
ヴィンテージスペックはフェンダー以外のブランドでは少ないので、演奏性やルックスを求めるなら良いシリーズと言えます。
Vntera II のメリット
- メキシコ製ヴィンテージ仕様
- スペック厨も納得のローズウッド指板
- カッティングのキレが増す7.25”指板R
メキシコ製ヴィンテージ仕様
USA製よりも安価なメキシコ製の、ヴィンテージ仕様を採用したのがVintera IIシリーズです。
現在ヴィンテージギターとして高値で取引されるFenderの黄金期。50年代、60年代、特徴的な70年代当時の仕様を再現しています。
伝説的なギタリストたちや、ヴィンテージギターを扱うプロギタリストと、同じルックスのギターを安価に手に入れられるのが嬉しいですね。
また、ヴィンテージ仕様はフェンダー以外だと選択肢が少ないです。その点からも、ヴィンテージスペックを手頃な価格で入手したいなら、ちょうどよいのがVintera IIです。
スペック厨も納得のローズウッド指板
Vintera IIはメキシコ製でありながら、ローズウッド指板を採用しています。
2016年頃からワシントン条約(CITES)の影響で、メキシコ製フェンダーではローズウッドではなくパーフェロー指板が使われていました。
代替材とは言え、パーフェロー指板は少し赤みがかった見た目などが原因で、嫌うマニアもいました。
しかし、2023年新発売のVintera IIでは、メキシコ製でも待望のローズウッド指板が復活。
メキシコ製の価格でありながら、ローズウッド指板のギターが手に入るようになりました。
カッティングのキレが増す7.25”指板R
ヴィンテージ仕様で演奏に最も影響するところが、7.25”(184mm)の指板ラディアスです。
エレキギターにおいて、最もカーブがきつい指板は、音が切りやすいのが特徴です。
ファンクのみならず、現代的なポップス/ロックでは16ビートのカッティングを聞く場面が多くありますよね。
弦を軽い力で押さえることでき、少し力を緩めるだけで音がスパッと切れるので、カッティングのキレが増します。
ヴィンテージトールサイズのフレットであることも、軽い力で押さえられるという点をサポート。
ヴィンテージ仕様と言いながらも、現代的な音楽にもマッチする仕様と言えますね。
また、このライティングはローコードが押さえやすい、握り込むプレイスタイルも向いています。
親指で低音弦を押さえるような、ブルース〜ロック系のプレイヤーにも好まれます。
ギターはスペック(仕様)から演奏性やサウンド傾向が比較的把握しやすい楽器です。当ブログでは【スペックの読み方】と題し、スペックの違いによるギターのキャラクターの違いを説明します。ボディエンド側から見るとわかりますが、指板は[…]
クラシックフェンダーサウンド
正統派でクラシカルなフェンダーサウンドをしっかり体現しています。
心地よい倍音感と、洗練されすぎていないフェンダーらしさがあります。
Vintera II のデメリット
- ポリエステル塗装の質感
- 初心者にはおすすめしない7.25”指板R
ポリエステル塗装の質感
ボディは、安価なギターに使われるポリエステル塗装。
大量のギターを短時間で塗装することができるため、コスト削減のために採用されることが一般的です。
フェンダーでは艶を出す仕上げ(バフがけ)がしっかりされているので、安っぽい見た目ではありません。
とは言え、厚めの塗膜になってしまうことと、少し鈍い艶がマニアの目にはマイナスに映るかもしれません。
塗装が厚いと、衝撃や温度・湿度の状態変化には強いと言えます。しかし、サウンド面においてはヴィンテージっぽいアコースティックな響きは薄れ、タイトで芯のあるモダンな傾向になります。
この点がAmerican Vintage IIの方が、アコースティカルな響きと倍音感を持つサウンドを生み出す要因になっていると思われます。
ちなみに、最もお求めやすいフェンダーとして人気のPlayerシリーズもポリエステル塗装です。Playerシリーズがポリエステル塗装だから良くない、という意見は聞きませんので、あくまでもマニア目線ということで・・・。
初心者にはおすすめしない7.25”指板R
7.25”ラディアスの指板はローコードの押さえやすさやカッティングのメリットはありますが、初心者には嬉しくない特徴もあります。
それは弦高を下げづらい点です。
一般的に弦高を下げると、弦を押さえる力は弱くて良いので初心者も安心です。
しかし、7.25”指板Rでは少し弦高を下げただけでも、特にチョーキングの際に音詰まりが発生する不具合が生じやすいと言えます。
自分の好みに調整が苦手、そもそも自分好みのセッティングがまだわからない初心者には、少しハードルが高いと言えるでしょう。
ただし、背が高いフレットを採用しているので、昔のフェンダージャパンなんかと比べると、押さえづらさは払拭できていると感じました。
ラインナップ
ストラトキャスター
- Vintera II 50s Stratocaster
- Vintera II 60s Stratocaster
- Vintera II 70s Stratocaster
Vintera II 50s Stratocaster
メイプル指板のストラト。
50年代特有のVシェイプネックですが、やや丸みを帯びており、演奏性のクセはそれほど無いです。
エリック・クラプトン的なチョーキング・ビブラートに最適。
Vintera II 60s Stratocaster
ストラトキャスターの王道スペック。
10万円台半ばの価格で、ローズウッドが手に入るようになりました。
誰もがイメージする、あのストラトサウンドです。
Vintera II 70s Stratocaster
ラージヘッドとブレットナット、F刻印入りチューナー、3点留めジョイントがルックス的な特徴。
薄めの70s Uシェイプネックでの演奏性、リッチー・ブラックモア(Deep Purple)やイングヴェイマルムスティーンの影響もありハードロックプレイヤーに人気です。
テレキャスター
- Vintera II 50s Nocaster
- Vintera II 60s Telecaseter
- Vintera II 60s Telecaster Thinline
- Vintera II 70s Telecaster Deluxe with Tremolo
Vintera II 50s Nocaster
発売当初1950年Broadcasterの名称だったテレキャスターですが、商標権の都合で名称変更することに。1951年後期に正式にTelecasterと名称がつきますが、その間の期間は正式な名称がなくヘッドにもモデル名の記載がありませんでした。
現在その次代のテレキャスターは、通称ノーキャスターと呼ばれており、本モデルはそれを再現しています。過去カスタムショップ以外では製造されていないレアなモデルですね。
ブラックガードの愛称で親しまれる定番のテレキャスターは、アッシュボディです。
しかし、本機にはアルダーボディを採用しているため、サウンドもややマイルドに。
ネックは今のフェンダーでは珍しい、やや厚みがあるシェイプです。
Vintera II 60s Telecaseter
ありそうで意外となかった、60年代仕様のテレキャスター。
当時を踏襲した上で、今の時代にも受け入れられるパステルカラーを採用している点はさすがフェンダーという感じです。
Vintera II 60s Telecaster Thinline
60sですがマホガニーではなく、アッシュボディ仕様のシンライン。
Vintera II 70s Telecaster Deluxe with Tremolo
今回のテレキャスターデラックスは、トレモロ仕様です。
オフセット
- Vintera II 50s Jazzmaster
- Vintera II 70s Jaguar
- Vintera II 70s Mustang
Vintera II 50s Jazzmaster
ローズウッド指板とアノダイズドピックガードのジャズマスター。
プリセットサーキットやサドルなど、正統派ジャズマスターのサウンドが堪能できます。
ジャズマスの弱点とされる、弦落ちしやすいヴィンテージスタイルのサドルですが、ここから生ませるサウンドがあることも間違いありません。
Vintera II 70s Jaguar
今までのフェンダーのジャガーの中でもかなり珍しい、メイプル指板仕様。
ショートスケールとピックアップによる、ギラギラのサウンドはジャガーならでは。
Vintera II 70s Mustang
ラージヘッドやコンペティションラインなど、70年代ならではの仕様がつまったモデル。
コンパクトなボディ、ショートスケールとそのサウンドは、一般的なギターとは違いますが、様々なプレイヤーが楽しめます。
ベース
- Vintera II 50s Precision Bass
- Vintera II 60s Precision Bass
- Vintera II 60s Jazz Bass
- Vintera II 70s Telecaster Bass
- Vintera II 70s Mustang Bass
- Vintera II 60s Bass VI
Vintera II 50s Precision Bass
アルダーボディ+メイプル指板と、アノダイズドピックガードの、プレシジョンベースの定番スペック。
Vintera II 60s Precision Bass
ローズウッド指板を採用したプレベ。50sに比べてバンドアンサンブルに溶け込みつつ、ジャズベよりも存在感ある印象です。
Vintera II 60s Jazz Bass
ごくごくスタンダードなジャズベースです。
Vintera II 70s Telecaster Bass
今までのフェンダーのラインナップの中でも珍しい、70年代のテレキャスターベース。
ネックポジションのワイドレンジハムバッカーは、ラインナップの中で最もウォームなサウンドです。
Vintera II 70s Mustang Bass
ショートスケールと専用ピックアップによる独自サウンド。
コンパクトなボディとショートスケールによる弾き心地は、通常のベースにストレスを感じている方にもおすすめです。
Vintera II 60s Bass VI
ビートルズのドキュメンタリー映画で度々登場したこともあってか、2022年reverb.comで最も売れたベースがSquierのBass VIでした。
そのBass VIがFenderブランドで待望の復活。
ギターより1オクターブ低いチューニングで使用する6弦ベース。
バリトンギターよりもスケールが長い、ベースのショート(30”)スケールを採用しています。
シングルコイルの独自トーン、狭いナットなどギタリストにも扱いやすいと言えます。
旧Vinteraとの違い・変更点
新しいVintera IIシリーズは、旧Vinteraシリーズとどこが変更されたか、60s Stratocasterで比較してみます。
仕様 | VINTERA II 60S STRATOCASTER | VINTERA ’60S STRATOCASTER |
---|---|---|
市場相場価格 | 159,500円 | 159,280円 |
Body Material | Alder | Alder |
Body Finish | Gloss Polyester | Gloss Polyester |
Neck Material | Maple | Maple |
Neck Construction | 4-Bolt | 4-Bolt |
Neck Finish | Gloss Urethane | Gloss Urethane |
Neck Shape | ’60s “C” | Mid ’60s “C” |
Scale Length | 25.5″ (64.77 cm) | 25.5″ (64.77 cm) |
Fingerboard Material | Slab Rosewood | Pau Ferro |
Fingerboard Radius | 7.25″ (184.1 mm) | 7.25″ (184.1 mm) |
Number of Frets | 21 | 21 |
Fret Size | Vintage Tall | Vintage |
Nut Material | Synthetic Bone | Synthetic Bone |
Nut Width | 1.650″ (42 mm) | 1.650″ (42 mm) |
Pickups | Vintage-Style ’60s Single-Coil Strat | Vintage-Style ’60s Single-Coil Strat |
Controls | Master Volume, Tone 1. (Neck/Middle Pickups), Tone 2. (Bridge Pickup) | Master Volume, Tone 1. (Neck/Middle Pickups), Tone 2. (Bridge Pickup) |
Switching | 5-Position Blade | 5-Position Blade |
Bridge | 6-Saddle Vintage-Style Synchronized Tremolo with Bent Steel Saddles | 6-Saddle Vintage-Style Synchronized Tremolo |
Tuning Machines | Fender Vintage-Style | Vintage-Style |
Pickguard | 3-Ply Mint Green | 3-Ply Mint Green |
Control Knobs | Parchment Plastic | Aged White |
Case/Gig Bag | Deluxe Gig Bag | Deluxe Gig Bag |
変更点は
- 指板:パーフェロー → ローズウッド
- ネックシェイプ:Mid ‘60s “C” → ’60s “C”
- フレットサイズ:ヴィンテージ → ヴィンテージ・トール
- コントロールノブの色:エイジドホワイト → パーチメント
といったところ。
価格はほぼ同じで、ローズウッドになったことと、フレットが高くなって弦が押さえやすくなった点はほぼ全ての人にとって嬉しい点じゃないでしょうか。
ネックシェイプは誤差です。どちらもちょい薄いCシェイプで、誰にでも握りやすい形ですね。
ヴィンテージ原理主義者じゃなければ、買い替える必要はなさそうですが、今から買うなら新しいVintera IIの方が良いと思います。
しかし、旧Vinteraにラインナップされていた下記モデルは、Vintera IIでは無くなってしまいました。
- Vintera 50s Stratocaster Modified(S-1スイッチ)
- Vintera 60s Stratocaster Modified(S-1スイッチ)
- Vintera 50s Telecaster Modified(4-wayピックアップセレクターとS-1スイッチ)
- Vintera 60s Telecaster Modified(4-wayピックアップセレクターとS-1スイッチ)
- Vintera 60s Telecaster Bigsby
- Vintera 70s Telecaster Deluxe(ハードテイルブリッジ)
- Vintera 70s Telecaster Custom
- Vintera 60s Jazzmaster Modified(Tune-Oブリッジ)
- Vintera 60s Jaguar Modified HH(ハムバッカー搭載ジャガー)
- Vintera 60s Mustang
- Vintera 60s Jaguar
- Vintera 60s Mustang Bass
- Vintera 70s Jazz Bass
Made in Japan Heritageとの比較
日本製ヴィンテージ仕様の最高峰である、Heritageシリーズと比較してみます。
仕様 | Vintera II 60s Stratocaster | Made in Japan Heritage 60s Stratocaster |
---|---|---|
市場相場価格 | 159,500円 | 192,500円 |
製造国 | メキシコ | 日本 |
Body Material | Alder | Alder |
Body Finish | Gloss Polyester | Gloss Lacquer |
Neck Material | Maple | Maple |
Neck Finish | Gloss Urethane | Nitrocellulose Lacquer Over Urethane Finish |
Neck Shape | ’60s “C” | Thick “C” |
Scale Length | 25.5″ (64.77 cm) | 25.5″ (64.77 cm) |
Fingerboard Material | Slab Rosewood | Rosewood |
Fingerboard Radius | 7.25″ (184.1 mm) | 7.25″ (184.1 mm) |
Number of Frets | 21 | 21 |
Fret Size | Vintage Tall | Vintage |
Nut Material | Synthetic Bone | Bone |
Nut Width | 1.650″ (42 mm) | 1.615″ (41.02 mm) |
Position Inlays | White Dot | Clay Dot |
Pickups | Vintage-Style ’60s Single-Coil Strat | Premium Vintage-Style 60s Single-Coil Strat |
Controls | Master Volume, Tone 1. (Neck/Middle Pickups), Tone 2. (Bridge Pickup) | Master Volume, Tone 1. (Neck Pickup), Tone 2. (Middle Pickup) |
Switching | 5-Position Blade | 5-Position Blade |
Configuration | SSS | SSS |
Bridge | 6-Saddle Vintage-Style Synchronized Tremolo with Bent Steel Saddles | 6-Saddle Vintage-Style Synchronized Tremolo |
Hardware Finish | Nickel/Chrome | Nickel/Chrome |
Tuning Machines | Fender Vintage-Style | Pure Vintage Single Line “Fender Deluxe” |
Pickguard | 3-Ply Mint Green | 3-Ply Mint Green |
Control Knobs | Parchment Plastic | Eggshell |
Switch Tip | Parchment | Aged White |
Neck Plate | 4-Bolt Vintage-Style | 4-Bolt |
Case/Gig Bag | Deluxe Gig Bag | Deluxe Gig Bag |
大きな違いは以下の通り。
- 塗装:ポリエステル vs ラッカー
- ネックシェイプ:’60s “C” vs Thick “C”
- フレットサイズ:ヴィンテージ・トール vs ヴィンテージ
- ピックアップ:Vintage-Style ’60s Single-Coil Strat vs Premium Vintage-Style 60s Single-Coil Strat
- ナット:人工骨 vs 牛骨
- ポジションマーク:White Dot vs Clay Dot
- コントロールノブの色:パーチメント vs エイジドホワイト
カスタムショップのマスタービルダー「マーク・ケンドリック」監修であるHeritageシリーズの方が、ルックス面において、よりヴィンテージを踏襲していると言えます。
Heritageの方が3万円強高いのは、ラッカー塗装によるところが大きそうです。
じゃあ、サウンドもHeritageの方が良いかというと、そうとも言い切れません。
Heritageのサウンド傾向はやっぱり、日本製ならではのキャラクターが強いです。
日本製フェンダーのサウンドと言えば、芯があってクリアな優等生サウンド。暴れ感がある響きや、アコースティックな倍音感が少ないとも言えます。
日本の職人の精度の高さから製作される、狂いの少ない完成度がその音に仕上げているようです。
優劣ではありませんが、Vintera IIの方がアメリカ製の特徴に近いフェンダー的なサウンドと言えます。
精密すぎないメキシコ製のつくりが、アコースティック的な響きを生み出しているように感じました。
●7.25″R指板だけど、弦が押さえやすいギターが良い
●キレのあるカッティングや、ネックを握り込むフォームで弾きたい
●好きなギタリストに近いギターが欲しいが、シグネチャーモデルには抵抗がある