1985年の発表以来、常に仕様をアップデートするPAUL REED SMITH(以下PRS) Custom24。
私も2004年製のCustom24を愛用していますが、
PRS設立の35周年となった2020年、記念モデルの35thAnniversary Custom24でも採用された新しい仕様が、
レギュラーのCoreモデルにも採用されました。
この新しい仕様の解説とともに、USA製のCoreモデル PRS Custom24をレビューします。
PRS Custom24特徴
下記の★が2020年にアップデートされたスペックです。
★塗装(nitro over celluose CAB finish)
★”Tweaked” Phase III locking Tuner
ボディ
ネック(スケール、ラディアス)
ハードウェア
TCI tuned ピックアップ
ピックアップは85/15のTCI (TunedCapacitance Inductance) Tunedを搭載。
TCIは従来のピックアップのレシピはそのままに、ワイヤリングの際に測定器を用いることで、より理想的なピックアップを製造するじょとを目的としています。
そもそも85/18は、30周年に開発されたPRSの集大成的なピックアップ。
過去のHFSピックアップほどハイパワーではありませんが、
程良い出力とパンチがありつつ、フロントもリアも明瞭なサウンドが特徴です。
TCIになったことで、よりオープンでワイドレンジになった印象。
ピックアップ本体のサイズはエスカッションのサイズと合わせており
弦の入り込みやピッキングでピックアップのコイルを傷つけることが無いようにしているのもPRSならでは。
塗装(nitro over celluose CAB finish)
2019年には、ニトロセルロース・オーバーCAB(触媒アクリル)フィニッシュへの移行を開始しました。 生産工程に徐々に取り組まれていったため、2019年中に製造されたギターには、使用されているフィニッシュを正確に判断することが難しくなっています。
https://www.prsguitars.jp/prs-faqより引用
従来のV12フィニッシュではポリエステル・ベースコートとアクリル・トップコートを採用し、
木材を保護する強度とフィニッシュの美しさを確保していました。
今回から説明文のとおり、トップコートにニトロセルロースラッカーを採用しています。
しかし一般的な薄く柔らかいラッカーフィニッシュでは、鳴りがヴィンテージスタイルに寄りすぎるため、
PRSでは硬さと耐久性を備えたフィニッシュを研究し続け、
ギター全体の振動を含めた要素で、ポール自身が満足のできるフィニッシュが完成したようです。
ただし従来のPRSよりもスタンドなどゴム焼けなど管理に注意が必要になります。
”Tweaked” Phase III locking Tuner
Phase(フェイズ)=段階を意味し、ブリッジと同じく第3世代のPRSオリジナルロック式ペグ。
弦が直接あたるペグポストもまたメッキが施されていないブラス製で、
余計なキャラクターを加えない、ナチュラルで豊かな響きを提供。
ロック式なので弦交換も簡単に素早く行うことができ、
ペグに弦を巻き付けた部分の伸びによるチューニングの狂いの心配もありません。
そしてヴィンテージサウンドを強く意識したMcCarty594 にて登場した”Tweaked”ペグが、Cutom24にも搭載されることとなりました。
チューナーのギアとウォーム・ギアの両方を引っ張り、ウォーム・ギアの滑りを防止し、チューナーでの弦振動ロスを抑え、振動を可能な限りボディへ伝えるセット・スクリューをプラスした「Tweaked Phase III」
https://www.prsguitars.jp/mccarty594 より引用
見分けるポイントはギアとペグボタンをつなぐポストにネジがある方がTweakedです。
また大体的に公表されていませんが、このペグは日本が世界に誇るハードウェアメーカーであるGOTOH(ゴトー)がPRSだけのために製造しています。
ボディ
ボディはメイプルトップ、マホガニーバックですがここにもPRSならではのこだわりがあります。
トップ材にはフレイムやキルトなど美しい杢目のフィギュアドメイプルが使用されています。
さらにグレードが高い材には10top、Artist Packageといった材も存在します。
また意外と知らない人も多いのが、ボディバックのマホガニーも基本的には1ピース材を採用している点です。
コスト面や強度面からボディ材は2ピースが一般的ですが、
1ピース材でも狂いが出ない丁寧な工法により、ボディ全体がよく響くためのこだわり仕様。
メイプルトップ・マホガニーバックと言えばレスポールですが、ボディの厚さはCustom24の方が薄く、
弾きやすく・抱えやすい点に加え、サウンドの重心が下がり過ぎず低域から高域まで綺麗に出音されます。
ネック
ネック材
また木材は”柾目”のマホガニーと木取りまで決まっています。
マホガニーはネック材としては少し強度が低いですが、柾目を使うことでネックの反りにも強くなり、
ギブソンのように簡単に折れません。
マホガニーネックならではのサウンドキャラクターも獲得しています。
ネックのサイドも綺麗に丸められており、左手親指で押弦するような握りこむグリップでもストレスはありません。
スケール
スケールはフェンダーとギブソンの中間25インチ(635mm)。
日本のPRS担当者いわく、ギブソンスケール(24.75インチ)では09-42をセットすると6弦開放の音がシャープしやすく、
フェンダースケール(25.5インチ)はジミヘンやSRVが半音下げて使っていたように、演奏するにはテンションがキツイため
PRSはほとんどのモデルに25インチを採用している。とのことでした。
具体的には、ピッチの安定性、ピッキング時の適度なハリ、チョーキングの快適さといった
サウンド、演奏性ともにバランスの良いテンションを実現します。
指板・ラディアス
指板はローズウッド。ほかのグレードと異なり油分もある良質なローズウッドを使用しています。
指板ラディアスは10インチ(254mm)。
ヴィンテージギブソンレスポールからインスパイアされています。
コードプレイから速弾きソロにまで対応できる中庸さがあります。
フレットもいわゆるミディアムジャンボサイズに近く、
弦を押さえる際にも無駄な力が不要です。
なによりこのバード・インレイもPRSの個性のひとつ。
シェイプ
シェイプはPatternRegular もしくは Pattern Thinのいずれかですが、Pattern Thinの方が人気が高く流通量も多そうです。
パターンシンの方がネックが薄いですが、ナット幅が少し広いですが
コードを押さえる際にも無理があるわけではないので、こちらの方が今風で弾きやすいシェイプです。
ナット幅・・・パターンレギュラー(42mm)、パターンシン(42.8mm)
ハードウェア
トレモロブリッジ、ペグ、ピックアップなどのパーツ類も汎用品を使用せず、
PRS独自設計のものを採用しているのも、他メーカーには無い強いこだわりを感じます。
基本的にはクロームカラーのパーツを使用しますが、
ハイブリッド・ハードウェアと呼ばれる、ブリッジではサドルが、ペグではツマミ部分のみがそれぞれゴールドになったものもあります。
ブリッジ GEN III TREMOLO
GENはGeneration(世代)の略、現行品は3代目の専用トレモロブリッジ。
弦振動をボディにしっかり伝えるために6本のネジで固定されています。
GENIIIではこのネジをより大きくしたことで、ボディとの設置面積をさらに増やしています。
一般的なトレモロではチューニングの安定性を図るために2点支持のものが主流ですが、
PRSでは6点支持でもアーミング操作後もブリッジが元の位置に戻るよう設計。
※これらのセットアップがなされているため、6点支持のネジはユーザー自身では触らないようにとPRSからアナウンスされています。
また、弦高調整のサドルビス設置部は溝が彫られており、サドルが左右にずれないように配慮されています。
一般的にパーツは高温で溶かした金属を方に流し込む鋳造ですが、
弦振動を殺さないようPRSのブリッジはブラスのブロックから削り出して製造。
内部のトレモロブロック、オクターブ調整ビス、弦高調整サドルビス、そしてサドルの弦が乗る部分は、メッキを施さず、オープンな響きを実現します。
サウンド
suhrやTom Andersonをはじめとする多くのハイエンドギターは、基本的にはストラトを進化させたものです。
具体的にはボディにはアルダーやアッシュにメイプルトップ、
そしてボルトオンのメイプルネックというマテリアルです。
一方PRS Custom24は、レスポールを踏襲したメイプル+マホガニーに、セットネックのマホガニーネック、
そこにトレモロによる操作性とサウンドにスプリングのリバーブ感を加えることで、オールジャンルに対応できるという、
多くのハイエンドギターとは異なる方向性であることが、ユーザー自身が認識しているかは別としてCustom24の人気の秘訣。
2ハムバッカーですが、コイルタップやパラレル接続などを組み合わせる5-Wayセレクターにより
クリーミーでジャジィなトーン、軽快なカッティング、ヘヴィなディストーションから、シルキーなリードトーンまで
幅広いジャンルに対応します。
ポジション2:ハムバッカー(ブリッジ)+シングルコイル(ネック):パラレル
ポジション3:ハムバッカー(ブリッジ)+ハムバッカー(ネック)
ポジション4:シングルコイル(ネック)+シングルコイル(ブリッジ):パラレル
ポジション5:ハムバッカー(ネック)
Custom24デメリット
ボディフィニッシュの経年変化
その見た目の美しさも所有欲を満たしてくれるPRSのメリットですが、
個体によっては長年の経年変化が顕著に表れる個体も存在するのは事実です。
ひとつめは色の退色。
特に鮮やかな青系、Blue Faded BurstやBlue Fadeなど退色した個体を多い気がします。
長期在庫品など、店頭で蛍光灯にさらし続けられたものがそうなっているケースが見受けられますので、
保管時にはその辺を意識することをおすすめします。
ふたつめは白濁です。
これは色を問わず現れることがあり、ネックやサイドなど目立たないところの場合もあれば、
ボディトップが白濁してしまうものもあります。
高額でリセールバリューが低い
クオリティは間違いありませんが、通常の価格では新品は50万円を超えてきています。
これは原材料の高騰や、輸入の関係から年々価格も上がってきた経緯があります。
一方、中古市場は従来から変わらないこととメルカリなど個人売買が盛んになったことで、
楽器店での中古相場は20万円半ば、個人売買では20万円を切るものも出てきています。
購入後、手放すことがなければデメリットではありませんし、
どうしても新品価格では購入がはばかられるという方は中古の購入も視野に入れると良いです。
同じくUSAメリーランド工場製のS2 Custom24や、インドネシア製のSE Custom24との違いはこちらの記事もご覧ください。
まとめ
年々スペックがアップデートされていくCustom24ですが、
ピックアップ、ラッカートップ塗装、ツイークドペグなど、
オープンでワイドレンジという、ある種トラディショナルなサウンドキャラクターがさらに強くなりました。
2000年代初頭はLINKINPARKなどモダンハイゲインなギタリストにとても受け入れられていましたが、
HFSピックアップをやめたあたりから徐々に、オールジャンルに対応できるように進化、
ついにはジョン・メイヤーにまで使用されるようなったように。
ポール自身の好みか、プレイヤーの要望を反映してか、
全体的にヴィンテージスタイルに傾倒しているのが興味深いですね。