アコギの木材の種類、音と見分け方【スペックの読み方】
ギターはスペック(仕様)から演奏性やサウンド傾向が比較的把握しやすい楽器です。当ブログでは【スペックの読み方】と題し、スペックの違いによるギターのキャラクターの違いを説明します。
ネットで好みのギターを探したり、オーダーメイドする際の参考になれば幸いです。
では今回のテーマはアコースティックギターに使われる木材の種類とその違いです。
使われている部位でのサウンドにもたらす影響
アコースティックギターは多くが木材で作られています。
しかしギターの木材と一言にいっても下記の部分に分けられます。
・サイド/バック材
・ネック材
・指板/ブリッジ
ギターのボディのサイド材とバック材、また指板とブリッジの木材は同じものが使われることが多いので
これら4つの部位の木材を見ると、ギターのサウンドキャラクターが見えてきやすいです。
また、それぞれがサウンドに影響しますが、個人的にはざっくり下記の割合で、木材によるサウンド影響が大きいかなと思います。
トップ:サイド/バック:ネック:指板/ブリッジ
5:3:1.5:0.5
1本100万円以上するようなギターを作る個人製作家の方にも伺いましたが、とにかくボディトップ材が最もサウンドへ影響を与えやすいという認識でした。
材の違いもそうですが、トップ材の不具合は特にサウンドに影響しやすいので、管理には十分注意したいところです。
トップ材
弦の振動を受け止める部分で、楽器全体の音質、キャラクターを決定づける重要な部位。サウンドボードとも呼ばれます。
一般的に軽くて弾力があるため響きやすく、かつ丈夫な木材としてスプルース(松)やシダー(杉)といった針葉樹が使われます。
ダイナミックレンジが広く豊かな響きになります。
少数派ですが、マホガニーやコアなどの落葉樹(ハードウッド)が使われる場合もあります。
これらは密度が高く響かせるのにエネルギーが必要となるため、
アタック感が丸くコンプ感が効いた、倍音の少ない芯のあるサウンドになります。
サイド/バック材
特に曲げられたサイド材などその構造上、剛性・安定性の高いハードウッドが使用されます。
トップ材の響きを増幅させることで、音質や倍音感を加えます。
スプルース(松)
トップ材と言えばこれ、松ぼっくりができるあの木です。スプルースにも様々な材が存在します。
スペック表にスプルースとだけ表記されているものはほとんどシトカスプルースを指します。
シトカ・スプルース(Sitka Spruce)
最もポピュラーなアコースティックギターのトップ材。
クリアで歯切れも良く、ダイナミックレンジが広いです。
その優れたバランスは演奏スタイル、ジャンルを問いません。
イングルマン・スプルース(Engleman Spruce)
シトカスプルースと比べると、透明感の中にも少し柔らかく繊細で広がりのあるサウンドと言えます。
アディロンダック・スプルース(Adirondack Spruce)
戦前のMartinやGibsonなど、いわゆるヴィンテージギターにはこのスプルースが採用されていました。
現在では希少なため、高級ギターに使用されています。
シトカスプルースよりもダイナックでパワフル、低音から高音までバランスが良く、立体感があります。
ジャーマン・スプルース(German Spruce)
別名ヨーロピアン・スプルース。
スプルースの中ではかなり硬質な部類で、輪郭と芯のあるクッキリしたサウンドが特徴。
こちらも希少性が高く、高級ギターでしかお目にかかれません。
イタリアン・アルパイン・スプルース(Italian Alpine Spruce)
Martinのカスタムモデルに使われる高級材。
弱く弾いても芯があり、強く弾いても音が潰れないレスポンスの良さがあります。
シダー(Cedar)
スプルースではないもうひとつのトップ材。ギターに使われるのはほとんどがウエスタン・レッド・シダー(Western Red Cedar)。
スプルースほど密度が無いため、柔らかく暖かみのあるサウンドで中音域に存在感があります。
ナイロン弦のクラシックギターではスプルースと並んで良く使用されます。
ローズウッド(Rosewood)
サイド/バック材で最もポピュラーな木材。ローズウッドも実に様々な種類がギターに採用されます。
指板やブリッジにも良く使用されます。
インディアン・ローズウッド(Indian Rosewood)
中音域がやや控えめですっきりしており、クリアな高音と輪郭のはっきりした低音でバランスに優れたサウンドです。
インディアン・ローズウッドが使用される代表機種はMartin D-28, 000-28といったスタイル28、 Taylorの800, 900, 一部400シリーズ、YAMAHAのLシリーズなど。
ブラジリアン・ローズウッド(Brazilian Rosewood)
通称ハカランダ。アディロンダック・スプルース同様、ヴィンテージギターに使われていますが、
絶滅危惧種に指定され、ワシントン条約 (CITES) の附属書I掲載により取引規制が行われたことで、入手困難となりました。
インディアン・ローズウッドよりも硬質で芯が強く深みがあり、それでいて倍音成分が豊かなサウンド。
ダイナミックでエキゾチックな木目のものも多く、そのルックスも神秘性を高めているように感じます。
この特性以上に、その希少性から70年代の国産ギターが未だに定価で取引されるものもありますが、
ハカランダだからと言って必ず良いギターか、というと状態やセットアップ、材自体のグレードにもよりますので酔狂しないようにご注意ください。
マダガスカル・ローズウッド(Madagascar Rosewood)
ハカランダに特性が近いとされ、現在のMartinが戦前仕様を再現した高級モデルなどに使用したことで脚光を浴びました。
ホンジュラス・ローズウッド(Honduras Rosewood)
同じくハカランダの特性に近いとされ、ニューハカランダとも呼ばれます。
代替品とは言え、上位機種にしか使われない高級材です。
マホガニー(Mahogany)
ローズウッドと双璧を成す木材であるマホガニー。
サイドバック材としてはもちろん、ネック材としては最もポピュラーな木材です。
しかし近年、マホガニーの木材供給が不安定になったため、Martinをはじめとする大手ブランドでは特定の表記はせず、
Genuine Mahogany(ジェニュイン・マホガニー;本物の)という表記が使われます。
代替材としてサペリ(Sapele)やナトー(Nato)が有名。
Taylorのようにあえてサペリを使用しているメーカーもあれば、安価なメーカーではこれらを使っているものをマホガニーと表記していることもあります。
音響特性としてはローズウッドよりも音の伸びは短く、輪郭が控えめで中音域が良く出るサウンド。
甘くウッディなサウンドからドライでカラッとした明るいサウンドまで、ギターによって様々です。
マホガニーが使用される代表機種はMartin D-18, 000-18などスタイル18の機種、Gibson J-45、Taylor 500シリーズなど。
メイプル(Maple)
他の材に比べかなり硬質な木材。
サスティンがやや短めで、歯切れが良くパーカッシブ、全体的にブライトな音色です。
メイプルが使用される代表機種はGibsonのDoveやSJ-200、Taylorの600シリーズなど。
コア(Koa)
ウクレレではポピュラーな木材。
明るい高音域とどこか暖かみのある存在感ある中音域を兼ね備えたサウンド。
コアが使用される代表機種はTaylorのKoaシリーズ、TakamineのPTU431Kなど。
ウォルナット(Walnut)
マホガニーなど今までポピュラーだった木材が枯渇、コストが高騰しはじめたことで、大手ブランドでも比較的安価なモデルに使用されることが多くなった木材。
キャラクターとしては、豊かな中音域と歯切れ良い輪郭のあるサウンド。
ウォルナットが使用される代表機種はGibson J-15、Taylorの100シリーズなど。
エボニー(Ebony)
アコースティックギターではほぼ指板やブリッジにしか使用されません。
ローズウッドよりも硬質で、さらに明瞭で輪郭のあるサウンドです。
2010年くらいまでは真っ黒なものしかギターに使われてきませんでしたが、木材の枯渇からテイラー社が品質には問題がない白いサップの入ったエボニーも使われるようになってきました。